人形佐七捕物帳077
結末は、｢雪女｣と｢雪男｣の悲しい物語
「雪女郎」（横溝正史）
（「完本 人形佐七捕物帳五」）
春陽堂書店
師走の雪の夜、
髪結い床の親方･弥七が
殺害される。
弥七は今際の際に
｢雪女郎だ｣と言い残す。
佐七が調べるとその正体は、
秋に縁談が壊れて入水自殺した
お雪という娘の幽霊の
可能性があるという。
｢雪女郎｣は続いて二人の男を…。
人形佐七捕物帳の第七十七話です。
表題からして横溝正史らしい一作です。
｢雪女郎｣は妖怪なのか幽霊なのか？
今回も佐七の推理と人情が光ります。
【捕物帳〇七七｢雪女郎｣】
弥七
…髪結い床の親方。
雪女郎に殺害される。
松吉…弥七の弟子。
伊之助
…職人。弥七の友人。
殺害された弥七を発見。
雪女郎に殺害される。
お雪
…数ヶ月まえに自殺した娘。
長屋住まいだった。
縁談が破談となる。
お君
…お雪の妹。十四歳。
おとわ
…お雪･お君の母親。盲目。
丹三郎
…お雪の婚約者。
呉服屋加賀屋の跡取り息子。
お梶
…丹三郎の母親。
惣十郎
…丹三郎の伯父。
丹三郎･お雪の縁談を壊す。
辰･豆六…佐七の乾分。
佐七…人形佐七と呼ばれる御用聞き。
本作品の味わいどころ①
果たして妖怪か幽霊か
雪の夜に現れた｢雪女郎｣。
伝説のように、
男をたぶらかし、男を殺害する。
弥七を殺害したのは妖怪なのか？
と思えば、実は
死んだ娘｢お雪｣である可能性が浮上。
弥七を殺害したのは幽霊なのか？
と思えば
弥七の死因は強い力による圧殺。
現場には熊の毛が散乱。
弥七を殺害したのは熊なのか？
それとも怪物なのか？と、
事件はめまぐるしく
現実離れしていくのです。
佐七は真相をつかめるか？
本作品の味わいどころ②
丹三郎お雪破談の原因
真相はつかめないものの、
佐七は事件の背景らしきものを
探りあてます。
お雪は自分一人で
盲目の母親とまだ幼い妹を養う
働き者の娘。
丹三郎は心根の優しい一人息子で
やはり母子の生活。
幸せを引き裂いたものが
相次いで殺害されるのです。
事件は怨恨？
本作品の味わいどころ③
人情話、でも結末は…
下手人は妖怪でも幽霊でもなく、
殺害は怨恨でもありません。
殺されたのはみな悪人であり、
結果的に死亡したのは正当防衛、
そして自業自得。
つまり悪人が
相応の罰を受けただけなのです。
横溝はここでも綺麗に
筋書をまとめていきます。
佐七が持ち前の
人情を発揮するのですが…、
最後はすべてが幸せには終わりません。
涙なくしては読めない人情物語です。
さて、｢雪女郎｣はいわゆる｢雪女｣。
｢雪娘｣や｢雪おなご｣と同列の、
雪の妖怪の別名なのです。
呼び方は異なれど、
｢死｣を意味する白装束を身にまとい、
冷たい息を吹きかけて凍死させたり、
男の精を吸いつくして殺すところは
共通しているのです。
そして｢熊｣とくれば｢雪男｣。
実は本作品の結末は、
｢雪女｣と｢雪男｣の
悲しい物語であることがわかります。
この素材も、横溝にもう少しの
時間が与えられていたならば、
長篇化して金田一ものに
改稿できた可能性のある作品です。
辺鄙な山間の寒村に伝わる｢雪女伝説｣。
雪の夜に現れる白い殺人鬼。
女性の姿が目撃されているのにも
かかわらず怪力による殺人。
不幸な別れをせざるを得なかった
男女の存在。
陰謀を画策した悪人三人連続殺人事件。
その背景に漂う遺産横領の匂い。
事件の真相を追う金田一と磯川警部…。
そのような夢物語を語っていても
仕方がないのは
わかっているのですが…。
まもなくやってくる横溝の命日を前に、
ついつまらないことを
考えてしまいました。
寒い雪の夜にお薦めの一話です。
〔｢完本 人形佐七捕物帳五｣
収録作品一覧〕
日本左衛門
殿様乞食
狸御殿
凧のゆくえ
雪女郎
雛の呪い
巡礼塚由来
武者人形の首
蛇を使う女
狸の長兵衛
銀の簪
夢の浮橋
藁人形
春色眉かくし
夜毎来る男
化物屋敷
吉様まいる
女易者
どもり和尚
狸ばやし
お化祝言
松竹梅三人娘
かんざし籤
（2022.12.23）
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